パン屋にイートインコーナーは必要?学校で学ぶノウハウをご紹介
目次
製パン学校の開業コースでは、生徒さんに必ずコンセプトを決めるように指導しています。
中でもイートインコーナーの設置はメリットが多く、お客様からのニーズが高いオススメのコンセプトです。
そこで今回は、パン屋にイートインコーナーを設置するメリット・デメリットを踏まえたうえで、ベーカリー開業コースでレクシャーしているノウハウの一部をご紹介します。
イートインコーナーとは?
イートインとは、「中で食べる」と直訳できる通り、お店で買った食べ物や飲み物を「購入した店内」で飲食する行為のことです。
つまり、イートインコーナーとは店内に設置されている客席を指しており、イートインスペースとも呼ばれています。
最近では、コンビニ・スーパー・デパ地下など様々な店舗にイートインコーナーが設けられており、パン屋も例外ではありません。
パン屋の場合、シンプルなカウンター席から本格的な「ベーカリーカフェ」まで、客層や店舗の規模によって工夫できるのが特徴です。
ちなみに、「イートイン」という単語は和製英語のためネイティブには伝わりませんので注意が必要です。
私たちは、いわゆるファーストフード店でも「イートイン」するか、「テイクアウト」するか選択しています。
この「テイクアウト」も同じく和製英語で、イートインの対義語といえます。
イートインを利用すればランチタイムの混雑を避けることができる、低価格で贅沢気分が味わえる等のメリットが人気の理由なのでしょう。
さらに友人とのちょっとしたおしゃべりの場、隙間時間のコーヒータイムなど使い方は様々です。
このような需要の高さを考慮すると、やはりパン屋開業に際してイートインコーナーの設置を検討する価値はありそうです。
イートインコーナーに必要な許可・資格は?
パン屋の開業に必要な許可は、「製造・販売するパンの種類」と「提供する方法」ごとに定められています。
まずは、扱うパンの種類によって定められている、必要な許可について見てみましょう。
▼製造・販売するパンの種類による規定
- 食パン・菓子パンのみ:菓子製造業許可
- サンドイッチなどパンを加工した調理パンのみ:飲食店営業許可
つまり、「食パン・菓子パン」と「調理パン」の両方を製造・販売するなら、テイクアウトであろうとイートインであろうと、「菓子製造業許可」と「飲食店営業許可」の両方が必要となるのです。
一方、提供する方法で区分した場合、イートインコーナーを備えたパン屋を開業するには、下記の許可・資格が必要となります。
▼イートインコーナーに必要な許可・資格
- 食品営業許可
- 菓子製造業許可
- 飲食店営業許可
- 食品衛生責任者の資格
- 都道府県ごとに定められた施設基準
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食品営業許可
パン屋を開業するには、テイクアウト専門店であろうとイートインコーナーを備えている店舗であろうと、どちらも食品営業許可が必要です。
▼食品営業許可が必要な店舗
- 食品を製造・販売する店舗
- 食事を提供する店舗
これは、あらゆる食品をあつかう店舗を対象とした許可証で、食品衛生法等に基づいて定められています。
食品営業許可を取得するには、下記2つの条件を満たしていなければなりません。
▼食品営業許可の条件
- 食品衛生責任者資格の有資格者を、1店舗に最低1人は置かなくてはならない
- 都道府県ごとに定められた施設基準を満たしていなければならない
上記を満たしたうえで、最寄りの保健所へ食品営業許可を申請しましょう。
菓子製造業許可
食パンや菓子パンを製造・販売するパン屋を開業するには、提供方法にかかわらず「菓子製造業許可」が必要です。
「菓子パンなら分かるけど食パンも?」と疑問に思われる方も多いでしょう。
しかし、法律上(食品衛生法第52条)は食パンも菓子パンも「菓子」に分類されているのです。
菓子営業許可を取得するには、工事が始まる前に保健所に設計書を提出したうえで申請し、製造施設が基準に適合しているか審査を受けなければなりません。
飲食店営業許可
食パン・菓子パンのみを提供するテイクアウト専門店であれば、菓子製造業許可のみでも開業・営業が可能です。
これに対し、ベーカリーカフェのように店内または敷地内にイートインコーナーを併設したパン屋を開業するには、「飲食店営業許可」を取得しなければなりません。
▼飲食店営業許可が必要なパン屋
- イートインコーナーを設けている
- 加工した調理パンを提供するテイクアウト専門店
ベーカリーカフェを含むすべての飲食店に必須の許可で、衛生・防火などの観点から施設・設備について審査基準が定められています。
飲食店営業許可を得るためには、店舗の図面を所轄の保健所へ提出したうえで店舗の立ち入り検査を受けなければなりません。
ただし、営業許可制度の改正に伴い、令和3年6月1日からはパンと簡単なドリンクに限り、菓子製造業許可のみでもイートインコーナーで提供できるようになりました。
■ 1つの許可業種で取り扱える食品の範囲が拡大
(例)
- 「飲食店営業」の許可を受けた施設で作ったケーキを包装し販売する場合は、飲食店が調理提供している食品の持ち帰りの範囲内であれば、新たに「菓子製造業」の許可は不要
- 「菓子製造業」の許可を受けた施設で、客が購入した菓子やパンに飲料を添えて施設内で提供する場合、新たに「飲食店営業」の許可は不要
- 「食肉製品製造業」の許可を受けた施設で、食肉製品に加え、これらと併せて食肉又は食肉製品を使用したそうざいについても、製造することが可能
とはいえ、菓子製造業許可しか取得していない店舗に対し、イートインコーナーで提供できるパンやドリンクの種類について明確なルールが定められていないため、あらかじめ最寄りの保健所で確認した方が良いでしょう。
食品衛生責任者の資格
パンを含むすべての食べ物を扱う場合、食品衛生責任者の資格が必要です、
そもそも、食品営業許可および飲食店営業許可を取得するには、食品衛生責任者資格を有したスタッフを1店舗につき最低1人は配置しなければなりません。
食品衛生責任者の資格を取得するには、保健所が実施している約6時間の講習を受講する必要があります、
この講習は、「衛生法規」「公衆衛生学」「食品衛生学」の3つで構成されており、中には小テストを行う地域もあるので、事前に確認しておきましょう。
ただし、下記に該当する方は食品衛生責任者資格の取得が免除されます。
▼食品衛生責任者資格が免除される人の一例
- 栄養士
- 調理師
- 製菓衛生師
- 食鳥処理衛生管理者
- 船舶調理人
- と畜場法に規定する衛生管理責任者
都道府県ごとに定められた施設基準
イートインコーナーの有無を問わず、パン屋を開業する際は都道府県ごとに定められた「基準」に沿った施設で営業をしなければなりません。
この施設基準は下記の2つで構成されており、それぞれ基準が細かく定められています。
▼都道府県によって定められている施設基準の内訳
- 共通基準
- 特定基準
とはいえ、どちらも重視されるのは「清潔」で「衛生」な施設が確保されているかどうかです。
パン屋にイートインコーナーを設置するメリット
なぜイートインコーナーを設置したパン屋が増えているのか、その理由は下記のようなメリットがあるからでしょう。
▼イートインコーナーのメリット
- コンセプトが明確になる
- お客様のリアルな感想や要望が汲み取りやすい
- 商品のさらなる購入につながる
- 焼きたてのパンを提供できる
- 客単価・利益率アップが見込める
- 客層が広がって新規顧客が増える
- リピーターの獲得に繋がる
コンセプトが明確になる
飽和状態が続くパン業界では、ライバル店との差別化が必至。
だからこそ重要となるのが、コンセプトの明確化です。
その点、イートインコーナーを設けているパン屋は、それだけでコンセプトが明確になり、多数派であるテイクアウト店との違いをはっきりと打ち出せます。
お客様のリアルな感想や要望が汲み取りやすい
定番商品だけで生き残れるパン屋は、そう多くはありません。
実際、ほとんどのパン屋が年に何種類もの新しい創作パンを商品化しています。
ここで問題となるのが、「パン職人」と「一般のお客様」とでは目線が違う、という点でしょう。
舌の肥えたプロのパン職人が「これは最高のパンだ!」と自負していても、お客様が同じレベルで同意してくれるとは限らないのです。
その点、イートインコーナーを設置しておけば、お客様の反応を生で観察できるため、商品開発がしやすくなります。
商品のさらなる購入につながる
ほとんどのパン屋さんでは、購買意欲を促すために試食品を用意しています。
とはいえ、ほんの1口だけの試供品で商品の良さを伝えるには無理があります。
一方、イートインコーナーを設定しているパン屋なら、新商品を「今日のオススメ」と題して積極的にアピールできる分、さらなる購買につなげやすいのです。
期間限定で、サービス品として無料で提供しても良いでしょう。
焼きたてのパンを提供できる
パン屋のイートインコーナーならではのメリットといえば、何といっても焼きたてのパンを提供できるという点でしょう。
焼きたてのパンを温かいまま、一番おいしいタイミングで召し上がってもえるのは、何より効果的なプレゼンテーションです。
すでにお客様がイートインコーナーで食べ始めていたとしても、「○○焼きあがりました!」とアナウンスすることで追加注文が期待できます。
客単価・利益率アップが見込める
ファミレスなどのドリンクバーを、お得だと思っているお客様も多いでしょう。
しかし、ドリンクバーの原価は1杯あたり5~10円ほどなので、実は店舗にとって最も利益率の高いメニューなのです。
原価率が低いソフトドリンクをイートインコーナーで提供できれば、客単価・利益率を大幅に向上させることができます。
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客層が広がって新規顧客が増える
ママ友や学生グループなどが気軽に立ち寄れるのも、イートインコーナーを設置しているパン屋ならではの魅力。
「コミュニティの場」としてお客様に利用してもらうことで、客層が広がって新規顧客の増加が見込めるのです。
もちろん、一般的なカフェやファミレスよりも短時間の滞在が前提になっているため、お一人さまでも人目を気にせずに立ち寄ってもらえます。
リピーターの獲得に繋がる
カフェ・ファミレス・定食屋などは、注文を聞いていから調理を始める分、待ち時間が長くなりがち。
まして、似たような時間に大勢のお客様が来店するランチタイムなら、なおさらでしょう。
その点、すでに完成しているパンに飲み物を添えて提供するだけなら、お客様を待たせることもありません。
「ここなら待ち時間が少なくて済む!」「ランチはこのパン屋でサクッと済まそう!」と思ってもらえれば、何度も繰り返し足を運んでくれる確率が上がり、リピーターの獲得に繋がるのです。
パン屋にイートインコーナーを設置するデメリット
開業を控えているパン屋にイートインコーナーを設けようか悩んでいる方は、デメリットについても押さえておきましょう。
▼イートインコーナーのデメリット
- スペースが広くなる分だけ家賃も高くなる
- 設備費用が増える
- 接客など業務が増える
- 人件費が増える
スペースが広くなる分だけ家賃も高くなる
イートインコーナーを設置するには、都道府県が定めた施設基準を満たした店舗設計をしなければなりません。
スペースに余裕がなければ基準が満たせず、だからといって広いテナントは賃料が高額になってしまいます。
テイクアウト専門店に比べると、より多くの開業資金が必要となるのはもちろん、月々の賃料が大きな負担になるのは避けられません。
設備費用が増える
2つ目のデメリットは、テイクアウト専門店よりも設備費用が高額になるという点です。
▼イートインコーナーに必要な設備
- テーブル
- 椅子
- 食器
- トイレ(地域によって基準が異なる)
- メニューブック
- 紙ナプキンなどの消耗品
- 消毒液
- パーテーション
客席数にもよりますが、数十万円ほどの予算は割り増しになると思っておいた方が良いでしょう。
接客など業務が増える
接客業務が増えるのは、ベーカリーカフェの最大のデメリットといっても過言ではありません。
とくにコロナ対策として客席を清潔に保つには、高度なホスピタリティが求められます。
もちろん、マニュアル作りやスタッフの研修も必要です。
人件費が増える
客席数によって多少の差はあるものの、接客スタッフの人件費が増えるのは避けられません。
とくにランチタイムには、テイクアウト客とイートイン客の両方が来店しますので、別々の人員を配置しておく必要があります。
学校で学ぶパン屋のイートインコーナーに関するノウハウ
最後に、ベーカリー開業コースで提供しているイートインコーナーに関するノウハウの一部をご紹介します。
▼イートインコーナーのノウハウ
- セットメニュー
- ワンプレート
- 後片付けはセルフで
- サイドメニューのテイクアウト販売
- パンの焼きあがり時間を告知
- Wi-Fi完備
- 回転率の低下を防ぐ方法
- 窓際にカウンター席を設ける
- コロナ対策
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セットメニュー
原価率が低く、利益率が高いソフトドリンクをセットにすることで、客単価アップを狙います。
ただし、スーパーなどの一般的な小売店で購入したソフトドリンクを提供しても、大幅な利益率アップは期待できません。
製パン学校の開業コースでは、より安価で品質の高い小麦粉・ドライフルーツ・コーヒー豆・ソフトドリンクなど、仕入れ先の選び方をレクチャーしています。
場合によっては、卒業生から耳よりな情報を入手することも可能です。
ワンプレート
ワンプレートにして配膳の手間を省くことで、イートインコーナーに関する業務を効率化できます。
このようなアイディアは、実践形式で学んでこそ浮かぶもの。
中には、実店舗での研修がカリキュラムに含まれている製パン学校もあり、生徒さん同士でアイディア共有することも可能です。
後片付けはセルフで
後片付けをお客様にセルフで行ってもらうのも、イートインコーナーの業務を減らす有効な手段です。
いわゆるファーストフード形式なので、ほとんどのお客様は抵抗なく受け入れてくれます。
サイドメニューのテイクアウト販売
スープやドレッシングなどをテイクアウト販売することで、安定的な売上げが見込めます。
パンよりも日持ちするので「まとめ買い」するお客様も珍しくありません。
パンの焼きあがり時間を告知
「あと10分でクロワッサンが焼き上がります!」など、プレートを掲げて告知するもの良いでしょう。
お客さまに焼きたてのパンが提供できれば、「家族の分も買って帰ろう!」と思ってもらえるかもしれません。
Wi-Fi完備
レストランや定食屋なら、座り心地の良いソファーや雑誌を提供するという手も使えるでしょう。
しかし、パン屋のイートインコーナーを利用するお客様は、「ちょっと立ち寄る」ケースがほとんど。
そのため、お客様に長時間くつろいでもらうための設備は不要です。
その代わり、短時間しか滞在しないお客様のニーズを満たすに、Wi-Fiの完備がオススメです。
回転率の低下を防ぐ方法
「イートインコーナーを設けると、滞在時間が長いお客様に席を独占されるのでは?」と心配になる方もいるでしょう。
たしかに、テイクアウトに比べると滞在時間が長くなるリスクは否めません。
回転率の低下を防ぐには、下記のような注意書きをイートインスペースに貼っておきましょう。
▼注意書きの一例
- 席は譲り合ってご利用ください
- Wi-Fi、充電用コンセントの利用はお1人様15分まで
窓際にカウンター席を設ける
イートインコーナーを設置する際、もっとも厄介なのがスペースの確保です。
とくに「広い店舗を借りるのは予算的に難しい…。」という悩みは、生徒さんからもよく聞きます。
そこでおすすめしているのが、窓際にカウンター席を設ける方法です。
これなら小スペースで済むうえ、通行人に「このパン屋ってイートインコーナーがあるんだ!」と気づいてもらえます。
コロナ対策
ここ数年、生徒さんから寄せられる相談で最もおおいのが、コロナ対策についてです。
客席に設置しても美観を損なわず、なおかつ安全性が保てるパーテーションの選び方などをご紹介しています。
場合によっては、複数の生徒さんと一緒にまとめて注文することで、単価を抑えることも可能です。
まとめ
製パン学校に通う生徒さんの中には、イートインコーナーを設けるコンセプトを選択される方も少なくありません。
たしかに、メリットが多くニーズが高いため、今後もイートインコーナーを備えたパン屋は増えるでしょう。
とはいえ、パン屋を経営したことがない生徒さんが1人でできることに限りがあるのも事実。
当校リライブでは、天然酵母パンを扱うベーカリーカフェの実店舗で研修を行っています。
パン作りはもちろん、イートインコーナーでの接客も実践できる内容になっていますので、ご興味のある方は ぜひリライブ公式サイトのベーカリーコースよりお問い合わせください。
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