食業界の「美味しければ必ず売れる」という幻想で失敗しないために。
飲食店の経営を考えると、
とかく、「味」や「商品」だけに思いが捕らわれてしまいがちになってしまうのではないでしょうか。
しかし、昔から、いろいろな会社の経営者が
飲食店の経営にトライしては失敗するということを繰り返している業種だということを考えると、
ことはそんなに単純なことではないと思います。
飲食店の経営というのは、ある意味で、
他の業種で成功を収めている経営者でさえ、
「簡単に開業」そして「簡単に経営」というイメージを持ってしまっているように感じます。
しかし、考えてほしい。
有名な企業グループの経営者でさえ、
飲食業界に新規事業を起こし、そして、店を潰してしまうということは良くあることです。
しかも、その方々にはいろいろなブレーンやコンサルタントがついていたに違いないのです。
それではなぜ、卓越した経営手腕があっても、飲食店を潰してしまうのだろうか?
それは、飲食店に対する大きな誤解が生じているからに違いないのです。
誤解を恐れずに言えば、それは飲食店に対して、
「美味しければ必ず売れる」という誤解です。
かなりクレバーな経営者でも、
飲食店に対しては、その誤解を拭い切れないで間違えてしまうのです。
そして、比較論で、
「そこそこ美味しいあの店よりも、自店は美味しいと私は確信するので、あの店よりも売れるはずだ!」
というセリフがしばしば登場します。
これは非常に危険な考え方です。
「美味しい」というものという非常に主観的で曖昧な判断基準を、
ビジネスに持ち込むのは非常に難しいのです。
他の世界で考えてみましょう!
例えば、歌が上手い!
「山本譲二」と「AKB48」と「嵐」の中で、
どの人、もしくは、どのグループの歌が一番上手いでしょうか?
多くの人が山本譲二さんと答えるのではないでしょうか?
それでは、今週のランキングでは、山本譲二さんがNO1かというとそうではありません。
もちろん、山本譲二さんのCDの販売数が最終的に
他の2グループを上回ることもあるかと思いますが、
「歌が上手い=売上」という世界ではありませんよね。
これは小説や漫画、そして俳優、お笑い芸人、等にも当てはまることではないでしょうか?
しかし、圧倒的に歌が上手い歌手の人や芸術家は別だとは思います。
ゴッホとシャガールのどちらの絵が上手いという議論は不毛ですよね。
カレー屋さんも、ラーメン屋さんも、定食屋さんも、
全ての飲食店がうちは美味しいよ!と言っています。
もちろん、不味いものはあまり食べたくないとは思います。
だから正しくは「美味しいから売れる」ではなく、
「美味しくないと売れない」です。
あるパン屋さんのオーナーが言われてました。
「いくら健康素材を使っても美味しくなければ売れないよ!
だってパンは薬じゃないんだから!」
その通りです。
でも、美味しさだけで売るためには、
それこそゴッホやショパンや美空ひばり等のような
圧倒的な「美味しさ」に対する説得力が必要だと思います。
ほとんどの店舗が唱えているレベルの
「美味しい」という証明が難しい拠り所だけで飲食店を経営するのは、
楽ではない、というより「いばらの道」なのです。
もちろん、美味しいことは非常に大切ですが、
これらの非常に曖昧で、主観的な要素にばかりとらわれていると、
本質を見失ってしまう可能性があることを忘れてはいけません。
大きな店も小さな店でも、
様々な食業界の店が自店を「美味しい」と言っているではありませんか?
消費者は美味しいという言葉に惑い、そして飽和している。
どの美味しさを信じて良いのかわからない。
だから美味しさだけを切り札につかってはいけないのです。
カレーと牛丼はどっちが美味しい等というような不毛な力比べをし続けることで消耗してしまいます。
だから、飲食店を経営するためには、
「美味しい」という要素以外の、消費者に訴えかける要素を考えることが大切です。
お客様にとってより健康的な安心な素材を使用した商品を出そうとか?
それは、夏は暑いから、冷たい商品を出そう!であるとか?
昨日よりも、より手間をかけた商品を出そう!であるとか?
同じ素材や材料を使用しても、工夫して
もっと安い商品をつくろう等の具体的な表現ができるような事を目指すことも必要じゃないでしょうか?
もちろん、それだけで「AKB48」が売れている理由を表現することはできないかもしれません。
(それはまた別の機会に・・・)。
曖昧でとらえどころがない「美味しさ」だけで売ることは
ビジネスとしてはリスクが高すぎます。
もっと、具体的な行動や努力を積み重ねることが大切なはずなのです。
現在、飲食店の世界は「美味しい」という言葉に溢れている。
その溢れた言葉だけで、差別化は決して出来ないはずなのです。